組織の管理
有限会社の扱いについて
中小企業の多くは、株式会社の形態のほか、有限会社という形態をとっています。この有限会社については、従来「有限会社法」によって規制されてきました。
ところが、「会社法」の施行に伴って、有限会社法は廃止されるに至り、現在では、新たに有限会社を設立することはできなくなりました。
では、これまでに有限会社として設立された、現に有限会社として運営されている会社はどうなってしまうのか、ここでは、その点について、みていくこととしましょう。
Q&A
この点について、「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(以下、「整備法」といいます)は、現に存在する有限会社は、会社法における株式会社として 存続するとして(整備法2条1項)、原則として会社法の適用を受けることとなりました。
しかし、これまでに存在した有限会社は、法律上は、株式会社とされても、商号(会社の名称)中に「有限会社」という文字を用いなければならないとされ(整備法3条1項・2項)、また、全ての株式につき譲渡制限の定めのある株式会社とされ、これと異なる内容を定款に定めることは許されません(整備法9条)。
このため、会社法上の譲渡制限株式発行会社に関する規定の適用を受けることになります。整備法は、このような有限会社を『特例有限会社』とよんでいます。
基本的には、そうなりますが、特例有限会社においては、有限会社の閉鎖性・小規模性を考慮して、引き続き次のような措置が認められています。
(1) 株式の譲渡制限
特例有限会社は、発行する全株式について、その譲渡に当該会社の承認を要する旨を定めた株式会社とされます(整備法9条1項前段)。
但し、特例有限会社の株主間で株式譲渡をする場合には、会社がこれを承認する旨の定めが定款に記載されているものとみなされていますから(整備法9条1項後段)、従来の有限会社法どおり、株主(社員)間の株式の移転は自由とされています。
(2) 株主による権利行使
1)株主総会の招集請求権―株式保有条件の相違
会社法297条1項では、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6ヶ月前から引き続き有する株主が取締役に対して株主総会の招集を請求できるとされるのに対し、特例有限会社では、総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主が株主総会の招集請求権を有するとされます(整備法14条1項)。
2)株主総会の一部決議事項の決議要件の相違
株式の買取や引受人の募集、取締役等の責任免除等に関わる株主総会決議の要件については、会社法309条2項では、議決権を行使できる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めたときはその割合)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めたときはその割合)以上の多数とされています。
他方、特例有限会社では、総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めたときはその割合)を有する株主が出席し、当該株主の議決権の4分の3以上の多数とされています(整備法14条3項)。
(3) 会社の機関
1)必要的機関
特例有限会社において設置が予定される機関は、株主総会、取締役のほか、監査役のみです。このうち、前2者は、必要的機関ですが、後者の監査役は、設置しても設置しなくてもかまいません。 会社法で認められた会計参与、会計監査役については設置できません(整備法17条)。
2)取締役・監査役の任期
株式会社においては、取締役・監査役の任期は最長でも10年ですが(株式譲渡制限会社の場合)、特例有限会社においては、特に規制は設けられておらず(整備法18条)、株主総会の意思決定に委ねられます。
(4) 決算公告の義務について
会社法は、株式会社全般に決算公告の義務を課しましたが(440条)、特例有限会社には決算公告の義務はありません(整備法28条)。
現に存在する有限会社は、何らの手当をすることなく、特例有限会社として存続することになりますが、法律上は株式会社とされたために、会社法の適用を受け、次の点で、旧有限会社と異なる規制を受けます。
(1) 株主数の上限の撤廃
旧有限会社では、社員の数は50人を超えてはならないという制限がありましたが(有限会社法8条)、特例有限会社では、このような制限はなくなります。
(2) 社債、新株予約券の発行
旧有限会社では、社債、新株予約券を発行することは認められていませんでしたが、特例有限会社では、発行が認められます。
(3) 譲渡制限株式の一般承継人に対する売渡請求
会社法174条によると、株式会社は、相続等の一般承継によって譲渡制限株式を取得した者に対して、その株式を当該会社に売り渡すよう請求できる旨を定款に定めることができるとされますが、特例有限会社においても、この規定の適用があります。
手続を踏めばできます。
整備法によると、「商号変更による通常の株式会社への移行」という手続が必要と なります。具体的には、次のようになります。
(1) 定款を変更してその商号中に株式会社という文字を用いる商号の変更を行う。
(Ex.○△○有限会社→○△○株式会社)。
(2) (1)の定款変更の株主総会の決議を行ったときから、本店所在地においては2週間、支店所在に地においては3週間以内に、1)特例有限会社については解散の登記、2)商号変更後の株式会社について設立の登記をそれぞれ行うことになります。
この場合、新しい会社法では最低資本金制度が撤廃されたため(資本金1円でも株式会社の設立が可能)、資本の総額300万円の特例有限会社であっても増資して資本金を増やす必要はありません。
また、会社法は、「株主総会+取締役1人以上」という機関構成を認めているので、特例有限会社から株式会社へ移行しても、取締役を増員したり、代表取締役を選任したりする必要はなく、現行の有限会社の役員構成のままで株式会社へ移行することが可能です。
(千賀守人)