組織の管理
会社の機関設計について
従来の商法下における会社の機関といえば、
代表取締役、取締役会、監査役(会)、株主総会
の4つの機関を定めるのが典型的であり、ほとんどの企業がその体制で会社の経営にあたってきました。
しかし、株式会社は、本来、多くの資本を結集する大企業を想定して設計された企業形態でしたが、現実には、個人商店が会社の形態をとった小企業から法が予定した大企業まで様々な規模の会社が混在しており、従来の商法が定めた上記の機関設計は、必ずしも現実に合致していないものになっていました。
そこで、新しい会社法は、様々な規模の会社にあわせて、それにふさわしい機関設計ができるように会社の機関を定めています。
以下には、あなたの会社にぴったりはまる機関がどのようなものなのか検討する一助とするために、会社法の定める機関について、みていきましょう。
機関設計に関する Q&A
- 機関とは、何ですか。
- 会社にはどのような機関が必要なのですか。
- 会社法は、どのような機関構成を予定しているのですか。
- 監査役(会)、会計監査人という機関は、これまでも存在していましたが、会計参与という機関は、従来の商法ではみかけませんでした。会計参与とは、どういう機関ですか。
- 会社法では、どのような場合に、どういう機関構成をとれるとされたのですか。
- 株主総会+取締役(+代表取締役)という機関構成は、どのような会社で採用できるのですか。
- 株主総会+取締役(+代表取締役)+監査役という機関構成は、どのような会社で採用できるのですか。
- 取締役(+代表取締役)+監査役+会計監査人という機関構成は、どのような会社で採用できるのですか。
- 株主総会+取締役会+代表取締役+監査役という機関構成は、どのような会社で採用できるのですか。
- 株主総会+取締役会+代表取締役+会計参与という機関構成は、どのような会社で採用できるのですか。
- 株主総会+取締役会+代表取締役+監査役会という機関構成は、どのような会社で採用できるのですか。
- 株主総会+取締役会+代表取締役+監査役+会計監査人という機関構成は、どのような会社で採用できるのですか。
- 株主総会+取締役会+代表取締役+監査役会+会計監査人という機関構成は、どのような会社で採用できるのですか。
- 株主総会+取締役会+三委員会+会計監査人という機関構成は、どのような会社で採用できるのですか。
自営業を営む個人(自然人)が取引先から商品を購入する場合、その業者は、商品の品質や代金を交渉し、その商品をいくらでいくつ購入するかを決定し、取引先と商品を購入する契約を締結するという流れになります。
しかし、会社という組織体が取引先から商品を購入しようという場合、会社それ自体は実際に商品の購入について交渉し、決定し、契約を締結するということはできませんから、会社の中で一定の地位にある者がその商品の購入について交渉し、決定し、契約を締結するということになります。
この会社の中において、会社の意思を決定し、決定された意思を執行(交渉、契約締結)する地位にある者を機関というのです。
会社に必要な機関を大きく分けると、次のようになります。
1)会社の意思決定をする機関
・会社の基本事項の決定
・会社の業務執行に関する決定(会社の経営方針の決定)
2)会社の業務を執行する機関
・1)で決定された会社の意思を執行する機関です。
3)業務執行機関を監督・監査する機関
従来の商法は、株式会社について、会社の基本事項に関する意思を決定する機関としての「株主総会」、会社の業務執行に関する意思を決定する機関としての「取締役会」、会社の業務を執行する機関として「代表取締役」、業務執行機関を監督・監査する機関として「取締役会・監査役(会)」を予定していました。
しかし、新しい会社法は、会社の必要に応じて、多様な機関構成をとれるように大幅に改正しました。ただその場合であっても、上記1) 2) 3)に位置付けられる機関が必要です。
会社法が予定している機関構成は、次のようなものです。
A株主総会+取締役(+代表取締役)
B株主総会+取締役(+代表取締役)+監査役
C株主総会+取締役(+代表取締役)+監査役+会計監査人
D株主総会+取締役会+代表取締役+監査役
E株主総会+取締役会+代表取締役+会計参与
F株主総会+取締役会+代表取締役+監査役会
G株主総会+取締役会+代表取締役+監査役+会計監査人
H株主総会+取締役会+代表取締役+監査役会+会計監査人
I株主総会+取締役会+三委員会+会計監査人
会計参与は、資金調達を円滑に行うに際し財務の信用度を高めるために新設されました(計算書類の適正確保)。会計参与は、計算書類の作成・保存を主な職務内容とする会計の専門家であり、会社の経営者サイドに立ち、取締役と「共同して」計算書類を作成します。「共同して」とは、逆にいうと、取締役は、単独では有効な計算書類を作成することができないことを意味します。
会計参与を設置するかどうかは会社の任意ですが、大会社以外の譲渡制限会社(株式を譲渡するのに会社の承認を要する旨定款で定めた会社)において取締役会を設置して監査役を設置しないという機関設計を選択する場合には、会計参与の設置が義務付けられています(327条2項)。
会計参与は、公認会計士(監査法人を含む)又は税理士(税理士法人を含む)でなければ選任できません(333条1項)。
会計参与は、次の職務・権限を有します。
- 計算書類の共同作成(374条1項・6項)
- 会計参与報告の作成(374条1項後段)
- 株主総会における説明義務(314条)
- 計算書類の保存(378条1項)
- 計算書類の開示(378条2項)
- 会計帳簿等を閲覧・謄写し、又は取締役や使用人等に対して会計に関する報告を求める権利(374条2項)
- 職務を行うため必要がある場合において子会社に対して会計に関する報告を求め、又は当該会社や子会社の業務及び財産の状況の調査をする権利(374条3項)
- 取締役等の不正行為等の株主等への報告義務(375条)
- 計算書類等の承認をする取締役会への出席及び意見の陳述義務(376条)
- 計算書類の作成につき取締役等と意見を異にする場合における株主総会での意見の陳述権(377条)
- 株主総会における会計参与の選任等についての意見陳述権(345条1項)
- 辞任した会計参与による株主総会における辞任の理由の陳述権(345条2項)
機関構成の条件をみていく前に、会社法は株式会社を区別していますので、それを説明します。
<公開会社>
その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいいます(2条5号)。
<譲渡制限会社>
会社が発行するすべての株式について、その譲渡による取得に株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けた株式会社をいいます。
<大会社>
(1)最終事業年度にかかる貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上である株式会社又は(2)最終事業年度にかかる貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上である株式会社をいいます(2条6号)。
次に、どういう場合にどういう機関構成をできるかについて、みていきます。
この点、旧商法の下で従来採用されていた機関構成は、新しい会社法でもそのまま採用することができ、会社法施行時に既に存在する会社は、新たな機関構成を採用するのでない限り、その機関構成を変更する必要はありません。
しかし、新たな機関構成をするという場合、次の条件を満たす必要があります。
- 株主総会と取締役は必ず設置しなければならない(326条1項)。
- 公開会社は取締役会を設置しなければならない(327条1項)。
- 取締役会を設置する場合は、監査役(監査役会)または三委員会(指名委員会・報酬委員会・監査委員会)のいずれかを設置しなければならない(327条1項・2項)。但し、大会社でない株式会社であって公開会社でない会社が会計参与を設置した場合、監査役(監査役会)または三委員会を設置する必要はない(327条2項但書)。
- 取締役会を設置しない会社は、監査役会又は三委員会を設置してはならない(327条2項但書)。
- 会計監査人を設置するためには監査役(監査役会)または三委員会のいずれかを設置しなければならない(327条3項・5項)。
- 大会社は、会計監査人を設置しなければならない(328条1項・2項)。
- 三委員会を設置するためには、会計監査人を設置しなければならない(327条5項)。
- 三委員会を設置した会社は監査役を設置することはできない(327条4項)。
- 三委員会を設置していない大会社の公開会社は監査役会を設置しなければならない(328条1項)。
譲渡制限会社で、かつ大会社以外の会社で、採用可能な機関構成です。
取締役は1名で足ります(326条1項)。
有限会社法に基づく有限会社で認められていた機関構成を株式会社においても採用できるようにしたもので、この機関構成を採用した株式会社においては、旧来の有限会社に類似した経営を行うことができます。
この機関構成を採用した場合、取締役の業務執行を監督するために、株主に広範な経営監督権を認めています。
なお、取締役が1人のときは、業務執行に関する意思決定及びその執行は取締役が行います。取締役が複数いるときは、原則として取締役の過半数をもって業務執行に関する意思を決定し(348条2項)、会社を代表する権限は各自の取締役が有しますが、取締役の中から代表取締役を選任したときは、その代表取締役だけが代表権を有します。
この場合、定款に規定すれば、取締役を構成員とする会議体を設けることもできますが、この会議体は取締役会とは異なるもので、取締役会に関する会社法の規制を受けません。
譲渡制限会社で、かつ大会社以外の会社で、採用可能な機関構成です。
この機関構成も、有限会社法に基づく有限会社で認められていた機関構成を株式会社においても採用できるようにしたものです。この場合も、監査役の監査の範囲を会計監査に限定したときには、取締役の業務執行を監督するために、株主に広範な経営監督権を認めています。
譲渡制限会社であれば、大会社であるかどうかを問わず、採用可能な機関構成です。
監査役の監査の範囲については、会計監査のほか業務監査がありますが、この機関構成を採用した会社は、監査役の監査の範囲を会計監査に限定することは認められません(389条1項)。取締役会を設置しない有限会社型の機関構成を採用した会社に会計監査人を設置できるようにしたものです。
この機関構成を採用した会社では、会計監査人による会計監査により計算書類の信用性が増し、金融機関からの融資等が受けやすくなると見込まれています。
大会社以外の会社全般で採用可能な機関構成です。旧商法上の典型的な機関構成です。
会社法は、監査役の監査の範囲について、原則として、業務監査・会計監査両方に及ぶとしました。
業務監査は、取締役の業務執行が法令や会社の定款に準拠して行われているかどうかを監査することをいいます。
会計監査は、取締役が株主総会に提出しようとする会計に関する議案等を監査することをいいます。
旧商法では、大会社及び中会社の監査役については、業務監査と会計監査が、小会社については、会計監査権限のみが認められていました。しかし、会社法は、原則として、すべての株式会社における監査役に、両方の権限を認めることにしました(381条)。
但し、譲渡制限会社で、監査役会又は会計監査人を設置していない会社については、定款で規定すれば、会計監査権限に限定できるとされました(389条)。その場合、株主に広範な経営監督権が認められています。
大会社以外の譲渡制限会社で採用可能な機関設計です。
この機関構成を採用した場合も、取締役会の業務執行を監督する機関がありません。そこで、株主に広範な経営監督権が認められています。
大会社以外の会社全般で採用可能な機関設計です。
旧商法では、大会社においては、会社の規模に応じてその監査機能を強化するため監査役会を設置するものとされており、監査役会は、同じく大会社において設置が強制された会計監査人と相俟って、取締役に対する監査機能強化にあたりました。
会社法は、この会計監査人とは切り離して、監査役に代わり監査役会を設けることができるものとしました。
監査役会を設置した会社は、監査役の監査の範囲を会計監査に限定することはできません。
監査役会を設置する場合、常勤監査役、社外監査役を含む監査役3名を確保しなければならないなど(半数は社外監査役)、実務上困難な問題があります。
譲渡制限会社全般及び公開会社でも大会社でなければ採用可能な機関設計です。
この場合、監査役の監査の範囲を会計監査に限ることはできません(389条1項)。
旧商法では、会計監査人を設置する場合、委員会設置会社となるか監査役会の設置が義務付けられていました。
しかし、委員会設置会社では、社外取締役が必要で、その確保が、監査役会では社外監査役の確保が、それぞれ困難な問題となっていました。
会計監査人を設けると、会計監査人による会計監査により計算書類の信用性が増し、金融機関からの融資等が受けやすくなるというメリットもあるため、会社法は、会計監査人を設置しやすいように改めました。
大会社かどうか公開会社であるかどうかを問わず、すべての会社で採用可能な機関構成です。
旧商法上大会社に限られていたのをすべての会社で採用できるよう広げました。
但し、公開会社かつ大会社は、この機関構成か次に述べる機関構成しか認められません。このような会社は、債権者・株主等利害関係人が多数存在するためにその利益を保護する趣旨にでたものです。
大会社かどうか公開会社であるかどうかを問わず、すべての会社で採用可能な機関構成です。
委員会等設置会社(会社法では、委員会設置会社といいます)は、平成14年改正商法で認められた制度です。
- この場合、
- 取締役会の役割は、業務執行の基本事項の決定と委員会メンバー及び執行役の選任等監督機能が中心となり、指名委員会・監査委員会・報酬委員会を設置して監査・監督にあたります。
- 監督と執行は制度的に分離され、業務執行は執行役があたり、代表執行役が会社を代表します。
以上に述べたように、会社法は、様々な機関設計を認めています。
(千賀守人)
どのような機関設計がふさわしいかどうかは、会社によって異なります。お悩みの方は、ご相談ください。