組織の管理
取締役会とは何か
取締役会とは、取締役の全員で組織され、会社の業務執行に関する意思決定を行う機関です。取締役は、会社の株主総会で選任されます。株主は、主に取締役の経営の能力を評価して選任するわけですが、取締役と会社との法律関係は委任の規定が適用されます。
株式会社であっても、取締役会を設置する義務のない会社がありますが、取締役会の設置が義務づけられていない株式会社であっても、定款の定めにより、取締役会を設置することができます。なお、取締役会を設置しなければならない会社は、公開会社、監査役会設置会社及び委員会設置会社です。
ここでは、取締役会を設置している株式会社の取締役会の招集と運営について説明します。
ステップ1 取締役会の招集
取締役会を開催するには、招集の必要があります。取締役会を招集することのできる者は原則として個々の取締役ですが、定款または取締役会決議によって例えば取締役会会長や代表取締役等を招集権者とすることもできます。ただし、招集権者以外の取締役であっても、一定の場合は自ら取締役会を招集することができますし、株主や監査役が自ら取締役会を招集することができます。
さて、招集権者による招集手続ですが、原則として会日の1週間前までに各取締役(監査役設置会社では、各監査役にも通知が必要です)に通知を発送する必要があります。ただし、この期間は定款で短縮できます。また、全員の同意がある場合は、招集手続をしなくても取締役会を開催できます。
ステップ2 取締役会の開催
取締役会では、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、出席者の過半数で決議します(特別の利害関係を有する取締役は決議に加わることができません)。これら過半数の要件は定款で加重できます。なお、取締役1人につき1議決権であり、株主総会とは異なります。取締役会では、会社の業務執行全般について議題になることが当然に予想されますから、取締役会の招集通知の中で予め議題を示す必要はありません。そのため、突然に、代表取締役社長解任の動議が出されて、解任決議が為されることも考えられます。
取締役会は一か所に全員が集まって会議をすることが原則ですが、テレビ会議方式や電話会議方式であっても、一定の要件を満たす場合は、取締役会への出席として認められます。
さらには、現実に会議を開くことなく可決の決議があったものとみなす方法もあります。この方法は書面決議といい、定款にあらかじめ定めておけば、書面決議をすることができます。
ステップ3 取締役会議事録の作成
取締役会の議事については、議事録を作成し、出席した取締役及び監査役は、署名または記名捺印が必要です。取締役会の決議に参加し、この議事録に異議をとどめていない取締役は、その決議に賛成したものと推定されます。この議事録は本店に10年間備え置かなければなりません。議事録は株主や会社債権者が一定の場合に議事録の閲覧・謄写を求めることができます。
取締役会の決議について注意すること
1.議題によっては、決議に加わることができない取締役がいる。
取締役会の決議については、原則として決議に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数の賛成をもって行います(会社法369条1項)。この点についてはいわゆる会議体の原則通りであって、特段の問題はないように思えます。
では、決議に加わることができない取締役はどのような取締役でしょうか。それは特別の利害関係を有する取締役です(同法同条2項)。特別利害関係というのは、たとえば、代表取締役の解任に関する取締役会決議の際の当該代表取締役です(反対に選任の際は候補者たる取締役は特別利害関係人にあたりません)。特別利害関係を有する取締役は、定足数及び議決要件の計算にあたり、取締役の数に算入されません。特別利害関係を有する取締役は、議長となることもできません。その他に特別利害関係にあたるとされているものは、取締役の競業取引の承認、取締役と会社との間の取引の承認等です。
2.取締役の競業取引について
競業取引というのは、取締役が、自己の名義または第三者の名義のいずれをもってするかを問わず、経済上の利益が自己又は第三者に帰属することと、会社が実際に行っている事業と市場において競合している取引のことです。受注している警備業務の乗っ取りを謀るために取締役が新会社を設立して従業員を引き抜いた例や翻訳業を営む会社の取締役が個人として同種営業の翻訳業を営み、同様の翻訳業を行う有限会社を設立して代表取締役に就任した等の裁判例があります。
取引の形態としては、例えばA社の代表取締役Bが他の会社Cの事実上の主催者としてC社を経営してC社のためにA社の営業の部類に属する取引を行っていれば、競業取引にあたります。
取締役が退任した後は、競業取引の規制は及びません。しかし、取締役が退任した後に、会社と同種の営業を開始して競業取引をする事案が見受けられます。この点については、取締役と会社との間において、取締役が退任後に競業避止義務を負う旨の合意がなされることがあるようです。この合意に効力については別の稿にてご説明します。
3.利益相反取引について
利益相反取引とは、取締役が、自己又は第三者のために会社と取引をすることです。甲会社の代表取締役がAであるときに、甲会社の平取締役Bが甲会社と取引する場合も含まれます)。もっとも、会社に対して取締役が無利息無担保で金銭を貸し付けることは、会社にとって一方的に利益があるので除かれますし、鉄道の利用、保険契約、預金取引など、普通取引約款に基づく取引も除かれます。
利益相反取引には、会社と取締役が直接取引する場合だけではなく、いわゆる間接取引と呼ばれる取引形態も同様に規制されています。会社が取締役の債務を保証する場合のように、会社は取締役と取引をするのではないが、取締役に利益であって会社に利益にならない取引も規制されています。
甲会社及び乙会社の両社の代表取締役を兼ねる者が、甲会社を代表して乙会社の債務の保証契約を締結する行為も該当するとの判例があります。
4.取締役会決議の瑕疵
取締役会決議の内容・手続に瑕疵ある場合、つまり内容が法律・定款に違反していたり、法律に定められた手続を踏んでいなかったりした場合は、その決議は無効になります。但し、決議が無効であっても、それに基づく代表取締役の行為が当然に無効になるわけではありません。むしろ代表取締役の行為について、相手方の法的安定性を考慮して、原則として有効とされています。
5.書面決議制度
取締役会決議の決議方法については、書面又は電磁的記録(例えばE-mail)により決議する方法ができます。
そのためには、1.定款の記載、2.取締役全員が書面(電磁的記録)により同意、3.業務監査権限を有する監査役が設置されている場合に監査役の異議が述べられていないこと、が要件になります。
遠隔地や海外などに営業拠点があり、規模が大きく、取締役の員数も多く、取締役が一箇所に集まって取締役会を開催することが困難な場合に有用と考えられます。
(大河内將貴)