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従業員の管理

就業規則

 会社が企業組織・施設と従業員から提供される労働力を有機的に結び付けて統一的に管理し,合理的・能率的に運営していくためには,会社に明確な基準と規律が不可欠です。
 そして,そのために有効なのが会社の憲法ともいうべき就業規則です。
 ここでは,就業規則について,みていきましょう。

就業規則とは何か。

 就業規則とは,各事業場において労働者が守らなければならない就業上の規律と職場秩序及び労働条件についての具体的内容を定め,これを労働者に周知し,かつ,事業場に備え付けているものをいいます。
 常時10人以上の労働者を使用する使用者は,就業規則を作成して労働基準監督署長に届け出なければならない義務が課されており,これを怠ると,30万円以下の罰金に処せられます。
 常時10人未満の労働者を使用するにすぎない使用者については,就業規則を作成する義務はありませんが,企業を合理的・能率的に運営・管理するためには就業規則を作成すべきであるといえましょう。

就業規則にはどのような効力があるのか。

 就業規則には,使用者労働者双方を拘束する性質があります。
 すなわち,就業規則は、法令又は労働協約に反することはできませんが,「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は,その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は,就業規則で定める基準による」(労働契約法12条)されます。
また,労働者に周知させていることを条件に,合理的な労働条件を定める就業規則については,「労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」とされます(労働契約法7条)。
 なお,企業秩序の違反に対して使用者によって課せられる懲戒処分については,懲戒事由が就業規則に定められ,就業規則に定められた種類の処分でなければ,課すことができません。
 就業規則が労働者双方を拘束する根拠について,最高裁判所昭和43年12月25日判決は,「労働条件を定型的に定めた就業規則は,一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく,それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり,経営主体と労働者との間の労働条件は,その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして,その法的規範性が認められるに至っている(民法92条参照)ものということができ」「当該事業場の労働者は,就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず,また,これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず,当然に,その適用を受ける」と述べております。

就業規則にはどのような事項を記載すべきか。

 就業規則を定める場合,T)必ず記載しなければならない必要的記載事項と,U)その事業場でその事項に関して特に定めをする場合に,あるいは慣行や内規がある場合には必ず記載しなければならない相対記載事項,V)記載するかどうかは自由だが,記載すればその効力が認められる任意的記載事項に分かれます。

絶対的記載事項
  1. 1  始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
  2. 2 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  3. 3  退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
相対的記載事項
  1. 3の2  退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
  2. 4  臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
  3. 5  労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
  4. 6  安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
  5. 7  職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
  6. 8  災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
  7. 9  表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
  8. 10  前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
任意的記載事項
  1. @ 服務規律・指揮命令・誠実勤務・守秘義務等に関する事項
  2. A 人事異動(配転・転勤・出向・転籍・業務派遣等)に関する事項
  3. B 社員体系,職務区分,職制に関する事項
  4. C 施設管理,企業秩序維持信用保持等に関する事項
  5. D 競業禁止・退職後の競業制限等に関する事項
  6. E 能率の維持向上その他の協力関係に関する事項
  7. F 職務発明の維持向上その他の協力関係に関する事項
  8. G 公益通報保護その他内部コンプライアンスに関する事項
  9. H その他の取扱いに関する事項

※ 必要的記載事項・相対的記載事項の数字は,労働基準法89条の号数を表します。
任意的記載事項@〜Hは,相対的記載事項の10の事項と重複するともいえます。

就業規則を作成するには,どのような手続が必要か。

 就業規則を作成するには,使用者は,まず,就業規則案を作成し,次に,当該事業場に,労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合,労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければなりません(労働基準法90条1項)。
 このように,使用者は,労働者の代表の意見を聴く必要はありますが,その同意を得る必要はありません。
 さらに,使用者は,就業規則に労働者の代表の意見を添えて,労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法89条,90条2項)。
 具体的にどのような就業規則を作成するかについては,ご相談ください。

就業規則を作成した場合,どのように扱わなければならないか。

 就業規則をどのように保管しているのですかと尋ねると,「大事なものだから,会社の金庫に保管しています。」と答える会社経営者の方が時折見うけられます。
 気持は分からないでもありませんが,これは大きな間違いです。
 就業規則は使用者(経営主体)と労働者との双方を規律する法的規範ですから,労働者にも周知されていなければなりません。
 この点,労働基準法第106条第1項は,「使用者は,…就業規則…を常時各作業場の見やすい場所へ掲示し,又は備え付けること,書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって,労働者に周知させなければならない」と規定しています。

就業規則を変更するには,どうしたらよいか。

 就業規則を変更する手続は,就業規則を作成する場合と同じです。すなわち,変更事項について,労働者代表者の意見を聴き,所轄労働基準監督署長に届け出ることになります。

就業規則の変更に限界はあるか。

就業規則の変更が従前に比べて労働者に有利な労働条件を与えるものである場合は,労働者に不服もないでしょうし,問題はありません。
 問題は,就業規則の変更が従前に比べて労働者に不利な労働条件をもたらす場合であり,就業規則の不利益変更が許されるかという点です。
 この点,労働契約法9条は,「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」としつつ,10条で,「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。」としております。

(千賀守人)

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