■夫がボケてしまい…
家族の知らない間に、自宅マンションを低廉な価額で売却してしまった。
■痴呆が進んだ妻が通販で商品を注文し、高額の請求書が届いた。
ご家族が突然認知症等にり患され、お悩みの方は多いと思います。
我々弁護士のもとにも数多くの相談が寄せられます。
こうしたケースは、法律上、どのように扱われるのでしょうか。
一般的に、売買契約、金銭消費貸借契約、賃貸借契約といった法律行為を有効に行うためには、意思能力が必要であるとされます。
意思能力とは、「自己の行為の結果を認識できるだけの精神的能力」をいいますが、上記の例でいいますと、「自宅マンションを売却すると、自宅マンションを引渡し、その所有権を移転する義務が生じることを認識できる能力」、あるいは、「商品を買ったら、その代金を支払う義務が生ずることを認識できる能力」を意味します。
そして、この意思能力を欠いた法律行為は、法律上、無効とされます。上記の例でいうと、自宅マンションを引き渡し、その所有権を移転したり、商品の代金を支払ったりする必要はないことになります。
結論からいうと、上記のようになりますが、ここに大きな問題があります。
それは、売買契約のときに、契約をなした当人に意思能力がなかったことについての証明責任は、その主張をする側にあるということです。
このように、過去の一定時点において、契約をした者に意思能力がなかったということを証明するのは、容易ではありません。
そこで、法は、このように判断能力が不十分となっている人について、あらかじめ家庭裁判所に確認してもらい、それにより、当人が売買契約をしてもその契約を取り消すことができる、あるいは有効に売買契約をするためには当人を保護する者の同意がなければならないといった制度を設けています。
それが「後見」「保佐」「補助」の制度です。
裁判所に、当人に後見・補佐・補助が必要と認定してもらうためには、家庭裁判所に、後見開始の申立て、保佐開始の申立て、補助開始の申立てをし、審判を得る必要があります。
それぞれの制度の適用を受けるためには、具体的にどの程度の精神的能力が必要とされるのでしょうか。
その判断は、難しいですが、民法は、次のように規定しています。なお、ここにいう事理を弁識する能力とは、先にも述べた、法律行為の結果を判断するに足りるだけの精神的能力をいいます。
■精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者
→後見
■精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者
→保佐
■精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者
→補助
それぞれの制度の具体的内容については、個々の説明を参照してください。
また、これらの制度は、いずれも当人の精神的能力が衰えた後に、一定の関係にある者の申立てによって認められる制度です。
ご自身では、現在の判断能力に問題はないが、将来についてはどうか不安だという方もいらっしゃると思います。
そこで、法は、そのように将来精神的能力が衰えてしまった場合に備えて、ご自身で予め定めておける任意後見という制度も認めています。
■任意後見については、こちらをご覧ください → 任意後見
(千賀 守人)